創業時の資金調達方法その③ 株式発行 data-rellax-speed=

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創業時の資金調達方法その③ 株式発行

資本政策に留意

創業時の資金調達方法その① 公的融資創業時の資金調達方法その② 補助金・助成金に続き、資金調達シリーズの3回目は、株式発行による資金調達について解説します。

株式会社?合同会社?起業に際して会社形態を選ぶポイントで書いた通り、株式による資金調達を行うことができるのは、文字通り、株式会社だけです。言い方を変えると、株式発行という方法により資金調達できることが株式会社の最大のメリットです。

株式発行による調達の特徴

株式発行による調達は会社法上では「募集株式の発行等(法191条~)」という概念で整理されています。これは、新たに株式を発行する場合(新株発行)だけではなく、保有している自己株式を割り当てること(自己株式の処分)も含んだ概念です。この「募集株式の発行等」は、株式を割り当てる=投資してもらう相手により、三種類に分類できます。

  1. 公募…不特定多数の者に割り当てるケース
  2. 第三者割当…特定の第三者に割り当てるケース
  3. 株主割当…すべての既存株主に平等に割り当てるケース

創業時の資金調達では、基本的に特定のVC(ベンチャー・キャピタル)や事業会社、個人投資家(エンジェル投資家)に資金を入れてもらうことになるため、第三者割当によることが通常です。

いずれのパターンでも共通することではあるのですが、株式を割り当てるということは、会社の株主になってもらう、すなわち、会社の所有者が増えることを意味しています。株式発行は、返済不要な資金を多額に調達しやすい、という側面が強調されがちですが、会社の最大の利害関係者である株主が増えるのだという点は、非常に重要です。

募集株式の発行は原則として株主総会の決議が必要ですが、取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任することができます(法200条1項)。創業したてのスタート・アップでは創業株主=取締役であることが通常のため、創業メンバーにより決定できる点においては変わりないと考えて差支えないでしょう。なお、公開会社ではいわゆる授権資本制度により取締役会において募集事項を決定できますが、創業時には無関係なので詳細は別の機会に譲ります。

株式発行による資金調達に際して留意すべき点

細かいことを言い出したらキリがないですが、留意点は、株主構成及び議決権割合です。大事なことなので二回言います。株主構成及び議決権割合には、どれだけ留意しても留意しすぎるということはありません。

特に、将来的にIPO(株式公開)やM&AによるEXIT(出口戦略)を考えているスタート・アップ企業にとって、EXITまでの株主構成及び議決権割合をどのようにマネジメントしていくかは、ビジネスをスケールさせていくことに匹敵するほど重要です。これを資本政策と言います。せっかくよいチームでビジネスを立ち上げ、順調にビジネスが伸びているにもかかわらず、資本政策を失敗してうまくEXITできない、というケースは実際にあることです。

VC(ベンチャー・キャピタル)をはじめとする投資家サイド、証券会社、公認会計士や弁護士等の専門家の間では、この資本政策の重要性はよく理解されるようになってきていると感じますが、プレイヤーである経営サイドでは、まだまだ実感を伴って理解されていないのが現状ではないでしょうか。

長くなってしまうので、典型的な資本政策の失敗例をふたつだけ、簡単に紹介します。

一つ目は、無計画に少額の増額をくりかえした結果、マイノリティ株主の数が増えすぎる、ということです。事業計画をきちんと策定せず、必要なキャッシュ・ポジションを把握しないまま、場当たり的に増資を行うと、このような事態に陥りがちです。創業から数年の段階で、創業メンバー以外に株主が10人も20人もいる、という状況はEXITを考えると好ましくありません。一般的に、IPO(株式公開)に際しては株主構成をかなり慎重にチェックされ、合理性の乏しい株主関係を整理することが求められるケースは多々あります。株主の数が増えれば増えるほど、この整理がやっかいになります。また、M&AによるEXITを考える場合でも、基本的に買い手は100%取得を求めるため、株主の合意をとる時間をふくめ、手続に手間がかかります。

二つ目は、ビジネスの初期段階に株価が高くつきすぎるケースです。非上場会社はマーケットがなく株価に時価というものが存在しないので、DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法=将来の価値を割り引いて企業価値を求める方法)や類似企業比較法(上場している類似企業の株価を参考に当該企業の株価を算定する方法)等を用いて株価を算定します。株価が高くつくということは、それだけ企業の将来性を高く評価されているということであり、また、少ない議決権を渡すだけで多額の資金調達ができるため、メリットのことのように考えがちです。問題は、事業が一時的にうまくいかなくなったときです。資金ショートのリスクが出てきて追加で増資を行いたい場合に、初期段階での高い株価がネックになるケースがあります。いちどついた株価は、次回以降の投資に際してベンチ・マークとして見られるので、芳しくない事業状況に比較して高くついた株価が嫌われ、資金が集まりづらくなってしまうのです。高い株価がついてしまったがゆえに、継続的な資金調達が困難になり、事業の谷間を乗り切れなくなる原因になりうるということです。

まとめ

株式発行による資金調達について、簡単に解説しました。

しつこくて恐縮ですが、資本政策の重要性についてしっかり理解したうえで、誰に、どれくらい投資をしてもらうか考える必要があります。特に近年は以前と比べれば驚くほど(といっても米国に比べれば全然ですが)シード期の若いスタート・アップ企業に資金が流れやすい環境が整ってきています。シード期の資金は経営者にとって喉から手が出るほどほしいものですが、簡単に飛びついてのちのち後悔しないよう、IPOやM&A、ファイナンス分野に造詣の深い実務家や専門家に相談しながら意思決定するのが賢明な経営判断と言えるでしょう。

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